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マットレスに馬の尾毛を使う理由

馬の尾毛は、カールさせて重ねると、体の動きに合わせてたわむクッションになります。曲がった繊維が立体的に重なるため、層に厚みが生まれ、内部には空気が通るすき間が残ります。尾毛そのものにも、周囲の湿度に応じて水分を取り込み、放出する性質があります。この三つの働きは、一本の毛の性質と、多数の毛を重ねたときの構造から生まれます。

詰め物のサンプル
詰め物のサンプル

尾毛は曲げて使えるケラチン繊維

馬の尾毛は、ケラチンというタンパク質を主成分とする長い天然繊維です。尾毛とたてがみを調べた繊維研究では、直径や密度、水分の吸収、引っ張ったときの強さや伸びなどが測定され、部位によって繊維の形状や力学的な性質に違いがあることが示されています。

詰め物として着目したいのは、長さのある尾毛が曲げに対して示す反発です。長い一本の毛に複数の曲がりがあると、隣り合う毛と異なる場所で触れ合います。そうした接点をもつ繊維を多数重ねることで、層の広い範囲にクッション性を持たせられます。

撚りと蒸気で立体的なカールをつくる

張り物に使う馬毛には、繊維にカールをつける加工が施されます。古い加工技術の記録には、毛を束ねて撚り、蒸気を当てて乾かした後、撚りを戻してほぐす方法が残っています。束ねた状態で形をつけると、ほぐした後も個々の毛に曲がりが残ります。

ほぐした毛を広げると、カールした部分が横や斜めを向き、隣の繊維に触れながら、層の厚み方向にも張り出します。国連工業開発機関の張り物技術資料でも、加工でつけたカールが詰め物の弾力を生むと説明されています。

荷重に合わせてたわみ、ふくらみを取り戻す

マットレスに体重がかかると、まず荷重が加わった部分でカールがたわみます。層が縮むにつれ、繊維同士の接点が移り、周囲のカールにも力が伝わります。曲がり方も向きも異なる繊維がそれぞれに変形するため、荷重に応じてクッション層の厚みが変わります。

寝返りを打って荷重が別の場所へ移ると、それまで押されていた繊維が元の曲がりに近い形に戻ろうとし、層がふくらみを取り戻します。カールが集まってつくるこの弾力は、横になるときや姿勢を変えるとき、寝面にしなやかな反発を加えます。

詰める密度でクッションの感触を調整する

詰め物の密度は、仕上がった層の体積に対して、どれだけの繊維が入っているかを表します。同じ厚みでも、繊維を多く詰めると接点が増え、たわむときに互いを支え合いやすくなります。ふんわり広げると繊維が動ける空間が大きくなり、荷重がかかったときの沈み方も変わります。

製作時には、毛の量と仕上がりの厚みを合わせて考えます。カールの状態や他の層による押さえ方も感触に影響するためです。層の中で繊維が偏らないように広げ、目指す感触に合わせて詰める量を調整すると、寝面全体で厚みと反発をそろえやすくなります。

繊維のすき間を空気と水蒸気が通る

カールした毛を重ねると、繊維が触れ合う場所の間にすき間ができます。すき間が互いにつながると、空気や水蒸気が層の中を移動できる経路になります。押された部分では経路が狭まり、荷重が抜けてカールが起き上がると、すき間も再び広がります。

この経路をマットレス全体で生かすには、尾毛層の上下にある詰め物や側生地にも、空気や水蒸気が通れる構成を選ぶことが大切です。繊維が厚み方向に重なる構造は、クッション性を持たせながら、内部に空気の通り道を確保するのに適しています。

繊維そのものが湿度に応じて吸放湿する

すき間を水蒸気が移動する一方で、毛の一本一本も周囲の空気と水分をやり取りします。空気の湿度が上がるとケラチン繊維が水分を取り込み、周囲が乾いてくると、繊維内の水分が空気へ戻ります。この湿度に応じた水分のやり取りを吸放湿と呼びます。

I. C. Wattは馬毛を含むケラチン繊維を対象に、周囲の湿度を変えたときの吸放湿と繊維の長さの変化を調べました。マットレスの詰め物として見ると、繊維が水分を一時的に受け取り、繊維間のすき間を通じて周囲の空気とやり取りできることに意味があります。

ほぐし方と留め方が層の均一さをつくる

カールをつけた尾毛を敷く際は、かたまりをほぐし、厚みを確かめながら面全体に広げます。繊維がさまざまな方向に向くように敷き込むことで、カールが重なって荷重を受ける部分と、空気が通るすき間を層の中に分布させられます。

組み立てでは、布で包んだり、タフティングで糸を通して複数の層を留めたりする方法があります。留める間隔や糸の張り方によって、詰め物を所定の位置に収めながら層のふくらみを調整できます。毛を均一に広げてから留めると、場所による厚みや感触の差を抑えやすくなります。

隣り合う層と役割を分ける

寝面に近い位置にウールや綿などの層を重ねると、体に触れる部分のやわらかさを調整できます。その下に尾毛を敷けば、上の層が荷重を伝え、尾毛のカールがたわんで弾力を加えます。表面から荷重を受ける順番を考えると、各素材の持ち味を生かしやすくなります。

スプリングを備えたマットレスでは、コイルがより深い位置で体重を支え、上に重ねた尾毛は寝面に近い位置でクッションとして働きます。尾毛を入れる位置と層の厚みを調整することで、表面のやわらかさと、少し沈み込んだときに感じる反発を組み合わせられます。

保存修復の記録に残る馬毛の使い方

英国のヒストリック・ロイヤル・パレスが公開したハンプトン・コート宮殿の儀礼用寝台の修復記録には、リネンの袋に羽毛や羊毛、馬毛を詰めた複数のマットレスが登場します。上に重ねるものの一部には絹を載せ、キルティングで中身を均等に保つ工夫も施されていました。

この寝台では、体に近い層と下で支える層を分けて重ねています。詰め物を布に収め、素材ごとに層を構成するという職人の考え方は、現在のマットレスでも尾毛の弾力や繊維間のすき間を生かすうえで役立ちます。

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